平成28年度第3学期終業式 校長式辞

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 昨年度以来、いろいろな場面で「学力の向上」ということを話し、実現のための方策に取り組んできました。今年度から始めた土曜授業の実施をはじめ、全校で4月に、1,2年生全員を対象に12月にベネッセコーポレーションの基礎力診断テストを実施したのもその一環です。学力の向上というと、大学進学を連想し就職にはあまり結びつかないと考えている人がいますが、学力の向上は進路に関係なく求められているものです。このことは、以前から文部科学省などの行政機関や産業界から言われている「高校教育の質の保証」ということにも結び付くものです。
 過日の全国普通科校長会で行われた文部科学省初等中等教育局高校教育改革PTリーダーの今井裕一氏の講演内容を基に、「学ぶことの必要性」について改めてお話しします。
 先ず、高校を取り巻く外的な環境として、少子化が非常に速いスピードで進んでいること、国際的な競争が進む中、日本の立ち位置が厳しくなってきていることが挙げられます。その背景となるものを3つほど示すと次のようなものがあります。
 背景の第1は、我が国の国際的な存在感の低下、特に経済面についてです。例えば、世界に占めるGDP(国内総生産)は、2010年の5.8%から2050年の推計値では1.9%に縮小してしまい、3分の1になってしまいます。また日本のGDPについては、1993年頃に世界第2位の大国と言われた時期もありますが、2012年では、日本人一人当たりに換算すると10位まで下がっています。
 世界市場において日本製品のシェアの急降下しているものがあります。例を挙げますとDVDプレーヤーの製造、カーナビ、リチウムイオン電池などの世界の市場が急激に伸びている分野にも拘らず、その分野での日本の世界市場のシェアに占める割合が急激に低下しています。それぞれ初期の頃には90%以上のシェアを占めていましたが、リチウムイオン電池の50%程度を除くと、他は10~20%まで低下しています。
 背景の第2は、既に平成27年度第2学期始業式でお話しした、将来の仕事の在り方の変化です。米デューク大学の研究者であるキャシー・デビッドソン氏が、2011年8月、ニューヨーク・タイムズ紙のインタビュで語った予測で、『2011年度にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に今は存在していない職業に就くだろう』というものです。二つ目は英オックスフォード大学で人工知能を研究しているマイケル・A・オズボーン准教授の、『雇用の未来―コンピュータ化によって仕事は失われるか』という論文の内容で、今後10~20年程度で、米国の総雇用者の約47%の仕事が自動化される(機械に取って代わられる)リスクが高いと結論づけています。日本でも、野村総合研究所とオックスフォード大学の研究者の共同研究で、国内で働く人の約半数の就く仕事が10~20年後に人工知能やロボットに置き換えられるとの推計をまとめています。こうした推計から、私たちが今当たり前だと思っている職業の多くが今後なくなっていく可能性が極めて高いと考えられます。
 産業種別の総就業者数の変化の予測では、「製造、建設業」が減少していく一方、「情報、サービス産業』が増えていくことです。1990年には製造業と情報産業・サービス産業は、ほぼ同数ですが、2020年頃になると予測値では情報・サービス業に就労する人と製造業・建設業に就労する人の差が2倍となる、つまり製造業・建設業において就業者が非常に減少していくということです。高校生の就業先として特に多い製造業・建設業が、実は産業構造の変化の中では非常に人を減らしている、若しくは先程の予測にあるように自動化・機械化が最も進んできます。今普通に働いている職種の中でも今後劇的に減ってくるものがあることが予測され、これまでと同じような進路の準備では対応できなくなるでしょう。
社会が劇的に変化していく中で、あなた方はどうやって自分の人生を組み立てていくのか、そういうことをしっかり高校生のうちから考えられるようにしておかなければなりません。高校卒業後大学や専門学校に進学するか就職するかに関わりなく、高校での3年間に問題意識を持って自分がどういう将来設計をしていくのか、将来どういう職業についていくのかイメージして考えていかなければなりません。
 背景の第3は、少子化です。1900年頃の日本の人口は4385万人位、100年近く過ぎて2010年頃には約3倍に増え1億2800万人位となっていますが、今後現在の出生率を基本に考えて推計した場合、100年後の2110年頃の数字は4286万人位となります。100年かけて3分の1に戻っていく。人口が減少局面に入っていくので、むしろ一人一人に丁寧に力をつける教育方法に転換しなければなりません。生徒諸君の立場に立てば、一人一人が着実に力をつけることを考えなければなりません。高校教育の質の確保をどうやって目指していくかが非常に大きな問題となります。高校教育が多様化しながらも共通性の確保、高校生に求められる基礎・基本をしっかりと身に付けることが求められています。
 高校生の一般的な現状については、「学力データ」から見ると2012年のPISAの数学的リテラシーでは、成績上位者と中下位者の間で二極化が進んでいると思われます。また、「学習時間のデータ」として、10年ほど前の国立教育政策研究所の調査結果では、4割の生徒が学校以外での学習時間が0、学校以外では全く勉強しないという結果でした。「学習習慣のデータ」でも高校生になると、48%程度つまりほとんど半分の生徒が、1か月間本を全く読んでいない。授業もしくは家庭学習といったところで知識・情報を得て学力をつけることもなく、読書もしていない高校生が非常に多くなっています。「時間の使い方のデータ」としては、携帯電話やスマートフォンを使用しいている時間をみると、男子高校生で平均3.8時間、女子高校生で平均5.5時間も利用しているという民間データもあります。最後に、「生徒の意識に関するデータ」では、自分が価値ある人間だという自尊心を持っている割合が非常に低い、自己肯定感や社会参画に対しての意識が非常に低いとされています。ここで話した傾向は、国レベルの大づかみの傾向で、本校にどの程度当てはまるかわかりませんが、ある程度類似した傾向がうかがえると考えています。
 国際競争力が急速に低下し、世界的な仕事の在り方の大きな変化を迎え、人口は減少する一方の中で、高校生の一般的な現状といわれている状況に浸っていては、今後70年近く残されている人生に明るい展望は描けません。このような厳しい社会的な背景の中でも将来への夢や希望を持つためには、まず高校生の現状といわれる状況を自らの意志で変えていかなければなりません。そのためには、日ごろから繰り返しお話ししている「目標を持つこと」を本気で考え、その目標の実現のための手立てとして質の高い学びに意欲的に取り組んでもらいたいものです。授業は勿論のこと読書や家庭学習に真剣に取り組み、厳しい社会的な環境への対応を自らの頭で考え、70年近くに及ぶ今後の人生を自分の力で切り開いていっていただきたい。自分から動きださなければ置かれる環境は悪化するのみでしょう。生徒諸君の学びや知に対する飽くなき欲求を、先生方はいつでも受けて立つ覚悟で待ち受けています。